栄華を極めた後、不老不死の霊薬を求めた秦の始皇帝も、結局寿命に勝てず、紀元前210年、ついに死去しました。遺言では、太子の扶蘇を位につけよということでしたが、丞相(じょうしょう)の李斯や側近の宦官(かんがん)趙高などは、自らの利益を守るため、賢い太子扶蘇のかわりに、始皇帝の遺言を偽り、幼い子の胡亥を立てて皇帝にしました。秦二世です。
その後、趙高は競争者の李斯も殺し、丞相の座にのし上がり、実権を握るようになりました。それでも、趙高は満足が行かず、皇帝の胡亥に取って代わろうと企むまでになりました。ただ、そのためには、宮廷の大臣のうち、どのぐらいの人が自分の言いなりにするか、また、どのぐらいの人が反対するかを確かめなければなりません。すると、趙高はまことに奇態なテストを考え出しました。これによって、自分の威信を試すと同時に、自分に従わない人を明らかにできます。
ある日、趙高は鹿を二世皇帝にたてまつり、笑いながらこう言いました。
「陛下、いい馬を献上いたします」
二世はそれを見たら、ぷっと笑い出しました。
「いやいや、丞相は間違ってるぞ。鹿だろ?」
それでも、趙高は顔色を変えず、平気にこう言いました。